子どもの定期検診で必ず投げかけられる質問です。
でも「誰もいません」と答えざる得ない人も多いのが今の社会です。
祖父・祖母と3世代で同居すればいいという考え方もありますが、父母と子供だけの核家族化が進んでいる今、それはなかなかむずかしい。
地域のいろんな人を巻きこんで子育てをしていければ、いざというときに助け合えるつながりが増えて、もうすこし気楽に子育てできるようになります。
■こそだてはなかまと
千葉県松戸市の馬橋にあるNPO法人「風の子サークル」は”子育ては仲間とともに”をモットーに地域の人たちが運営する場です。
満1歳から入会でき、満3~4歳で卒会します。週に1~3日子どもは保育者さんとともに遊んでいます。
泥をこねることに熱中する子、かくれんぼをする子、草むらを探検する子など、各自公園で思いおもいの遊びを見つけて楽しみます。
幼児教室とはちがい、大人が「今日はコレをしましょう」と子どもに活動を提示することはあまりありません。子どもの「これがしたい!」という思いによりそって遊びのサポートをします。
自分たちで遊びを見つけ、つくっていく。その経験をたっぷりすることで自己肯定感や自主性や社会性のような、生きていくために必要なその子の根っこが自然と育まれていきます。
遊びを見守る保育者さんは、かつて母としてサークルに所属していたOGさんたち。
親は保育のあいだに集まって子育てにまつわる座談会をしたり、絵本を学ぶ時間をもったり、手しごとをしたり。時には保育当番として保育にも入り、当番でない日は母ひとりになる時間がもてることも。
「ごはんを残さず、でもたのしく食べるにはどうしたらいいのかな」
「おむつはずし、みんなどうしてる?」
「オススメの絵本、どんなものがある?」
など、日々子どもと向き合う中で出てくるちょっとした疑問をシェアして語り合います。
親も子どももいい時間がもてる場です。
■ほしい子育ては、つくろう
風の子サークルは27年前にひとりのお母さんからはじまりました。
松戸の馬橋に住んでいた河上るみ子さんが、親子で遊べる「あっぷるはうす」というサークルを立ち上げたところ、あっという間に大人気になり30~40人の大所帯に。
次男の妊娠・出産を機に本や紙芝居の読み聞かせもはじめた河上さん。
そこに藤田浩子さんという、幼児教育の世界で活躍している方が噂をきいて参加するようになりました。
藤田さんは全国をまわってわらべうたや伝承遊び・おはなしを語る、通称「おはなしおばさん」。
絵本の勉強をもっとしたい。けれど子どもと一緒だとなかなか集中して話を聞けないし、子どもも「静かにね」といわれつづけるのは楽しくない。悩んでいた河上さんが藤田さんに相談すると、こんな答えが返ってきました。
「じゃあ、お母さんも集中して勉強できて、子どもも同じ仲間と遊べるサークルを作れば?きっと子どもも大人も楽しいよ」
そして風の子サークルが立ち上がることになったのです。
サークル在会中に2人目以降を妊娠出産する人も多いので、おぶわれて母の学び場に参加する赤ちゃんもちらほら。
活動の最中いろいろな理由で泣きだすこともしょっちゅう。そんなときはお母さんだけでなく、まわりの大人がさっと抱っこしたり「いないいない ばぁ」とあやしたり。
”私の”子どもではなく”私たちの”子どもとして一緒に子どもを育てる仲間がいる。母が孤独に子育てをする家庭も多い現代には心強いことです。
みんなで子どもを育てていこうとする文化はどのように育まれているのでしょう。
2014年度のサークル代表をつとめた礒崎晶子さんと2011年度・2015年度サークル代表をつとめる中山緑さんに聞いてみました。
中山:「その人に恩を返そうと思うのではなく、いつか誰かに返せばいいんじゃない?」と言われたことがあって、はっとしたんです。
仕事のわりふりは大まかには決めますが、基本的には気づいた人・できそうな人がやっていく方針で運営しています。
妊婦さんだったり、赤ちゃんが生まれたばかりだったり、子どもは一人でも体が弱いお母さんだったり、家庭ごとにいろいろな事情がある。
平等に仕事をわりふるのは非現実的なんですよね。ムダな平等は求めない。
あいまいさを許容しながら、ものごとを進めていくのがいいんじゃないかなあと。
■仕組化することで楽しく気楽に
風の子サークルのある馬橋・新松戸近辺は松戸市の中でも子育て広場が充実していて、一日中出入り自由な無料の子育て支援の場が数多くあります。
そこで出会うママ友同士で遊べばサークルなんて必要ないのでは?お金もかからないし・・・そんな疑問から、なぜこのコミュニティを選んだのか訊いてみました。
中山:近所でやってる子育て広場で教えてもらった手遊びが新鮮だったんです。その会を主催してたのが風の子で。
風の子のこどもを見て、いっぱい遊ぶけど、絵本や人の話しはきちんと聞く子が多く感じて、幼稚園入る前に自立の一歩が得られるっていいなあ…と感じたのと、決まった曜日に毎週同じ年齢の子たちと遊べるのがよくて入会しました。
親以外の大人が一緒に我が子を見てくれるのがすごくありがたい。「こんなことできるようになったよ!」と自分じゃ気づかない変化を教えてくれることもよくあるし。
仲間同士の遊びの中で人づきあいのルールを覚えていってるとも思います。「おまえ割り込むなよ!」みたいなぶつかり合いで順番にならんで待つことを知ったり。
母の前では甘えん坊でも、ちゃんと成長してるんだなと実感できます。
大家族があたりまえで、近所の子同士が路地裏で遊ぶのが日常の過ごし方だった時代は、こうして子どもも親も育っていたのでしょう。
入会直前に中山さんは「公園でも遊ぶときに、じぶんと友人のほかに、もうワンクッション何かがあってもいいな」と思っていたそうです。
中山:家族ぐるみでの密な友達づきあいもいいのだけれど、サークルって誰かと何かを一緒にやるのがシステムに組み込まれていて、自然とほどほどの距離感でつき合えるようになっている。
それもわるくないかなって。
たしかにそうかもしれません。
女子グループの「どんなときでも一蓮托生!」みたいな独特な意識はまあ美しい。だけど、疑問に思う人も意外といるものです。
礒崎さんもこう語ります。
礒崎:友達同士でわいわいするのもそれはそれで楽しい。
ただ、人とつながるシステムが外部化されてることで母が気楽になるというのはあるでしょうね。
だからでしょうか。
風の子にかかわる皆さんはほどよくゴキゲンな顔をしているのです。
礒崎:なにかについて気にする人がひとりでもいれば、理由を聞きつつみんなで一緒に考えていきますね。たとえば感染症やホットスポットへの対応などはそうでした。
一緒にやっていく母たちや保育者さんの思いを「あなたはどう思う?」と全員に耳を傾けるのが風の子のいいところかな。
問われ、考え、語り合う。その繰り返しで自分の子育てがつくられる。良い循環がここにはあります。
「昔の生活様式や家族の構成のほうが親子が育つにはよかったから戻しましょう」と呼びかけるのは非現実的です。
でも風の子サークルのように、地域に開かれた仕組みとしてよみがえらせることは可能です。
子育てのちょっとしたことをおしゃべりできる仲間がほしい。子育てをもうちょっと楽しみたい。
そういう人は馬橋のこのコミュニティを覗いてみませんか?
(text:いとうあやね)