2021年8月、omusubi不動産は東京・世田谷代田に新たな拠点「ナワシロスタンド」をオープンしました。
第2の事務所を構える下北沢BONUS TRACK店より徒歩10分の、梅ヶ丘通り沿いの戸建てをリノベーション。曜日ごとに異なる利用者がさまざまなメニューを独自のスタイルで提供するシェアキッチンを目指します。
omusubi不動産はこれまで千葉・松戸にて、シェアカフェ『One Table』やシェアアトリエ『せんぱく工舎』など空き家を活用した場を運営してきています。その5年間で見えてきたのは「『お店』はまちで暮らす人を緩やかにつなぎ、その人の生活を豊かにする」ということ。
家賃や競争率の高さなど、お店をつくる際にさまざまなハードルがある東京でも、利用者と一緒にその場所に根ざしたシェアキッチンをつくりたい。
ナワシロスタンドの目指すシェアキッチンとしてのあり方や今後の展望について、立ち上げを担当したomusubi不動産 日比野に聞きました。
「シェアキッチン」という形態の魅力
ーーナワシロスタンド(以下ナワシロ)がついにオープンしましたね。なぜ「シェアキッチン」という形での運営にしたんですか?
“場所と機会を提供することでまちの面白さをつくっていく” ということがomusubi不動産のテーマなので、松戸で運営しているシェアカフェ『One Table』の経験から、お店の独立をサポートしていくことに注力したいんです。
その一番効果的なのが「シェア」という手法だと思っていて。
いろんなお店が同じ場所で営業すれば、独自の発信だけでは届けられない人たちへのアプローチができて、新しいお客さんになってくれるかもしれない。ほかにも居心地の良い空間のデザインだったり、いろんな要素が交差すればするほど、関わる人のPRになる。
またいろんな視点からフィードバックが返ってくるのが、シェアキッチンの面白いところだと思います。互いにブランドを高め合って、集客をし合うことで結果的に相互にPRやブランドづくりに良い影響がでてくるだろうなと。
ーー高め合う関係があることで、個々の店のブランディングにもつながるし、結果ナワシロの魅力にもなりますよね。
単独でお店をひらくと、どうしても自分たちだけでがんばらないといけないけれど、シェアだと他の利用者と一緒に盛り上げていける。利用者さんからはそういう期待値を感じています。
ーー「シェアキッチン」という形態はすでに都内でいくつもあると思います。そのなかでも、ずばりナワシロの魅力って何ですか?
環境面では、元住宅を改装した2階建ての戸建てなので、ひとりの店主さんが1階と2階の両方を使えることですね。1フロア、限られたスペースのみという施設が大半ですが、ナワシロは1階では11席確保されていて、 さらに2階も10席程度確保できる。
飲食店を基本としながらフロアごとで多様な使い方ができるシェアキッチンは、あるようでなかなかないかなと思います。
ーーたしかに、2階は展示やワークショップなどの変わった使い方もできそうです。
もうひとつは、omusubi不動産が管理や運営に関わる下北沢BONUS TRACKのイベントスペースとも連動性がある部分ですね。ぽつんと単独のシェアキッチンというよりは、まちとの繋がりを感じるスペースではあると思います。
模索段階ではあるんですが、ナワシロとBONUS TRACKのイベントスペースとの連携した動きができるんじゃないかな。
ーーまちとの繋がりを感じさせる、というのはomusubiらしいというか。
実際、ナワシロのお客さんには常連さんが少しずつ増えてきているんです。BONUS TRACKによく来ている方とか、下北沢周辺の雰囲気が好きな方。まち歩きの習慣が根づいている世田谷の性質と相まって、まちのお店のつながりがお客さんに見えてきたらいいなって。
ーー 私たちが見えていないところでも、いろんな繋がりを提供できると嬉しいですよね。
空き家を活用する面白さを伝えたい
ーナワシロはこの場所を見つけてからたった4ヶ月でのオープンでしたよね。スピードを意識した背景には、どんなことがあったんですか?
都内でお店を始めたい人や、空き家をどうしたら良いかわからない、もしくは活用を考えているオーナーさんに対して、空き家の提供、活用の方法や面白さを伝える場所を本当に早くつくりたかったんです(笑)。
下北沢の事務所をオープンしてから実店舗を探している方のご相談が多くある一方、これまで空き家活用の事例は本店の松戸にしかなくて。下北沢周辺にでわかりやすい事例をつくることで、今後の空き家活用が少しでも進めばという気持ちでした。
ーー空き家活用の実例ができたことで、まちの空き家のオーナーさんにも活用のイメージを伝えやすくなったと思います。
まちの人に楽しんでもらう場所にしたいといった相談をされる機会が増えると嬉しいです。活用を通して「こういうことをやってみたい!」という利用者を応援でき、顔が見える状態をつくれるので、空き家オーナーさんにとっては安心だと思うんです。
そんな相談が増えることで、物件を探している利用者さんへ物件を紹介できる状況が早く来るといいなと。
「楽しみ」を曜日替わりで届けていく
ーーナワシロを運営していくにあたり、利用者さんと共有しておきたいことはありますか?
ひとつ断っておきたいのは、omusubi不動産はコンテンツ企画のプロ集団ではないんですね。もちろんそれぞれの利用者さんが繁盛店になるためのサポートには携わるものの、場所や機会を提供することがメインのサポートになっていきます。
なので、お店の販売形態・お店自体の見せ方・商品・味の部分はもちろん店主さんに基本的にはお任せです。でもそういう体制だからこそ、各利用者さんとomusubiの異なる視点を掛け合わせて、ナワシロを一緒に育てていけたら良いなと思っています。
ーーそのためにはどんな考えをもった利用者さんがいると良いのでしょうか。
シンプルに伝えると、ナワシロは「楽しみ」を曜日替わりに提供するシェアキッチンになるといいなと思っています。
ーー楽しみ?
その「楽しみ」とは何か、に対する答えを利用者さんがそれぞれ持っていると嬉しいです。
新しい場所で新しいお客さんにまた来てもらうとなると、口に入れた瞬間の美味しさだけではない、いくつかの特別に感じる要素が必要だと思うんです。例えば、提供する人の人柄やふるまい、商品を説明する内容の面白さとか。
要素が重なれば重なるほど、単に応援したい気持ちよりも「また食べたい」、「また見たい」とか、その体験にお金を払うから「また行きたい!」につながってくると思います。
そんなことを意識しているお店が集まることで、お客さんは他の曜日のお店にも関心を持ってくれると思います。
ーーたしかに。コンセプトをもち、どんな楽しみを提供できるかを、利用者さんと一緒に考えていきたいですね。
もちろん初めから固まっていなくても、これからこの場所で作っていきますっていうのでも大歓迎です。
ーー逆に出店が難しいケースはありますか?
例えば、ただ貴重なコーヒーや珍しいもの集めて提供したいですとか、料理が趣味でこれが得意料理だから売れるかどうかやってみたいとか、趣味の域を超えないと難しい気がしています。
なぜそのコーヒーを、なぜその得意料理を提供するのか、そもそもなぜ「お店」という形態が良いのか。自分なりの世界観があってそれを提供したいっていうのは、それなりの裏側があるはずなので、それを明確に持っている人だといいな。
ーーどんなに美味しくても?
美味しさももちろん重要ですが、まずはその利用者さんにしかない独自性に向き合っている方と一緒にナワシロを育てていきたいですね。
もちろん利用者さんごとで、ナワシロを一緒に使う他の利用者さんと目線を合わせたいことがそれぞれ異なると思います。だからこそ、お互いに参考にできるポイントが生まれると思います。
暮らしに安心感を得られるまちを目指す
ーーオープンからの1ヶ月、ナワシロの営業を振り返るとどうでしたか?
ナワシロの周りには、飲食店があまりないのと、オープン準備のときから通りがかる方が気にしてくれていたようで、初日にはたくさんの方が訪れてくれました。ご近所さんがナワシロに期待してくれているんだということがわかり嬉しかったです。
ーーもっと地域の方が気軽に入れる場所なるように、利用者さんにもまちに目線を向けてもらいたい?
みんながみんな、まちへの目線を100%を取りこまなくていいと思っています。もちろん0ではない方がいいんだけれど。
一定の層に狙いを定めるよりも、いろんな層のお客さんを迎えたいです。それぞれのお店にとがったコンセプトがある、だからこそ他の曜日の「楽しみ」を知りたくなる。
今まで知ることのなかった他の曜日のお店に関心を持つ人が増えることの方が魅力的だなと。そういうことも含め、「楽しみを曜日替わりで」ということは改めて利用者さんには大切にしてもらえたら嬉しいと思っています。
ーー利用者さんとomusubi、全員の力で繁盛店を目指していきたいですね。
そしてomusubi不動産としては、今後も世田谷周辺にお店として使える空き家をどんどん借りていきたい!
ーーBONUS TRACKやナワシロの周辺にお店を広げていけたら良いですよね。
また新しいお店づくりを通してつながった人たちが借りてもらえたら。そうすることで関わるみなさんそれぞれの「知り合い」を増やしていけると思うんです。
ーーまちに知り合いが増えることの良さってなんなのでしょう?
知り合いが増えると……。個人によると思いますが、そのまちで暮らしている実感を持てるような気がしています。何か食べに行こうかなと思ったときに、 中華屋さんだったらあの素敵な夫婦がやっているお店に行こうとか、ホッと一息つきたいしあそこのお茶屋さんに行こうとか。音楽好きの店主に教えてもらいたいことがあってかけこめる場所があるとか……。
顔馴染みの人たちがいることって、あまり重要視されないけどとても大事だと思うんですよね。コミュニティまではいかないんだけど、外に出ようとするきっかけだったりとか、そこで無意識に得られる充足感や安心感って、今の時代すごく貴重なことだと思っています。
ーー「ここで暮らして良かったな、引っ越してきて良かったな」 という気持ちに繋がりますよね。
世田谷区はとても豊かなまちに見えるし、もしかしたらそういうことが必要じゃないかもしれない。けれど知り合いがいることで、そのまちに暮らしていること、住んでいること自体が孤独な状態よりも、少し満たされている感覚になると思う。
ーー利用者さんたちのお店づくりへの挑戦を後押ししながら、omusubi不動産も拠点を増やしつなげる挑戦をしている。一緒にことを動かしている感覚が面白いです。
ナワシロにいつも良い雰囲気が漂っているのは、今までより少し背伸びをしてレベルアップしてみたいとか、住んでいる地域の方々にこういうものを届けてみたいっていうポジティブな気持ちを実現させようとする利用者さんのおかげだと思います。
omusubi不動産も提供できる幅が増えていけばいくほど、またいろんな人たちをサポートできる状況をつくれる。関わる人が出来るだけ幸せって言うとおこがましいですが、うまくいくようにお付き合いしていきたいです。
■Information
この記事の店主さんは、記事作成当時の方々で、現在は卒業されている方もいらっしゃいます。
最新情報はナワシロスタンドInstagramアカウントをご覧ください。
◆利用中の店主(2022.7.28更新)
火曜:Nadi
金曜、土曜:くなう東京