10月8日(金)から17日(日)まで、omusubi不動産の事務所のすぐ近く、「好月」というもつ焼き屋さんがあった場所を使って、美術家・久芳真純さんの展覧会が行われます。
今回の展覧会では、松戸で仕事や暮らしをつくる身近な人たちの姿を撮影した、映像作品を上映する久芳さん。
この作品をつくるきっかけは、omusubi不動産の殿塚が声をかけたことでした。
展覧会開催に際して、久芳さんと殿塚で、芸術・美術と不動産の関わりについて、改めて話をしてみることになりました。
話を聞かせてもらったのは、ここ数年のomusubi不動産の様子、久芳さんの作品制作の過程をそばで見せてもらってきた中嶋希実です。
文脈を紡いで、作品になる
– 2人が最初に会ったのって、どういうタイミングだったんだろう。
久芳
私は当時、まだ自分の活動をなにもしていなくて。でも、なにかやりたくて。まずはアトリエを持ちたいと思っていたら、殿(殿塚)を紹介してもらって。
殿塚
共通の知り合いがいてね。ちょうど「せんぱく工舎」をシェアアトリエとして始めるタイミングだったから、どう?って話をしたんだよね。
久芳
入居して1年は、借りたはいいけど、どう活動していいかわからない感じが続いていて。そんなときに「科学と芸術の丘」が始まるから、サポートスタッフとしてお手伝いしませんかって声をかけてもらったの。だけどアーティストのスタッフは今までもやってきていて。同じことを繰り返してもいいのかな、もう自分でやりたいなって思って、それを伝えたんだよね。
殿塚
そうだったね。ちょうどそのとき、「building C」の入居者を募集しないといけないタイミングで。芸術に対して理解のあるオーナーさんだし、今展示してもらえたら物件のPRになるんじゃないかって話になって。
殿塚
初めて久芳ちゃんの作品をみたんだけど、文脈を紡いでいく感じで作品をつくる人なんだなっていうのが最初の印象だったかな。もともと風俗店だった場所で、なんというか、鬱屈とした雰囲気が残っているようなところで。作品を展示することで、その空気が抜けていくような感じがあったんだよね。久芳ちゃんの雰囲気から、すごくやわらかい感じになるのかと思っていたら、なんかね、ちゃんと影もある人なんだとわかってほっとした気がする。
久芳
私が作家になりたいって言い始めたころから見守ってきてくれている人がいるんだけど、その人が「building Cでの展示は、決意表明みたいだった」って言ってくれていて。しばらくして、あかぎハイツで開催した展覧会で「作家になったね」って言ってもらうことができた。今思うと、すごく安心できる環境でやらせてもらうことで、自分が出たなっていう感じがしている。
殿塚
よく覚えてないんだけどさ、あかぎハイツでの展覧会を見たあと、作品の感想として「久芳ちゃんのパンツの中を見てるような作品だったね」って言ったんだよね。
久芳
そうそう。この人、なんの悪気もなくそんなことを!って、びっくりしたよ。
アーティストと不動産屋でできること
– 作品を並べるための空間というより、空いている空間を使って展覧会をすることが続いているけれど、それは久芳ちゃんがやりたいことでもあるのかな。
久芳
殿とときどき話すんだけど、作家がギャラリーに所属して、作品を売って生きていくっていう以外の方法を、一緒に探してもらってるような感じがしている。私はこうやって場所を貸してもらって展覧会をやれていて、殿は、私の展示がある種のオープンルームになってるって言ってくれて。どちらにとっても、新しい方法をつくっている感じがしているんだよね。
殿塚
久芳ちゃんに限らず、アート・芸術文化の分野で生きていこうとしている人たちって、経済的なことと接点をつくる難易度が高いんだろうと思っていて。僕が提案したいのは、そのスキルを転用してくれないかっていうオーダーなんですよね。
殿塚
久芳ちゃんが持っている美術の力を、僕らの困っているここに使ってもらえたら助かるんだけどって。そのときに、作品性が担保されること、クライアントワークっぽくならないほうがいいと考えていて。バランスとれるよねっていうポイントがあるんだとしたら、お互いに、生き方のひとつにできるかもしれない。
− 殿塚さんは、どうしてそう考えるようになったんだろう。
殿塚
僕がomusubi不動産を始める前、MAD Cityで仕事をしていたころに、アーティストという人たちと初めて会話したわけですよ。当時の僕にとっては不思議な存在だったんだよね。時間も守らない、お金も払わない、だけどなぜか評価されている。なんで?って。
アーティストと関わりができていくなかで、この人たちはすごく純粋で、表現活動はコミュニケーションの手段なのかもしれないって思うようになってきて。大人になると、素直でいることって難しいよね。だけどこの人たちは、そこにちゃんと向き合ってるんだと。
久芳
そっか。
殿塚
僕は作品の善し悪しはよくわからないけど、その人がいい人だったら作品をみたいと思う。芸術に関わる人たちと話すうちに、自分のなかでも、定義を変えることに対して抵抗がなくなってきた気がするんだよね。一緒にいることで、仕事や生活が大変なときに、柔軟になれるかもしれない。この社会のなかで変革を起こすための栄養として、芸術ってすごく大切なことなんじゃないかって思うようになってきている。
その価値は、作品を見た瞬間に劇的にわかるとは限らなくて。10年後、20年後にふと気づくものかもしれない。芸術文化って、投資スパンが長いと思うんだよ。じゃあ投資スパンが長い不動産と、経済的な仕組みとして両立させることができるかもしれない。
久芳
殿はしゃべるの上手だね。
殿塚
僕は作品をつくれないから、こうやって話して伝えることを、日々訓練してるわけですよ。
久芳
作家にとって芸術や美術が必要なことはあたり前なんだけど、そうじゃなくても必要だと思う人がいる。それを聞いて、ほっとするね。
常に関係性をつくっていく作品制作
– 今回久芳ちゃんが展覧会をする物件も、結果としてomusubi不動産が持つ空き物件を使って開催することになって。だけど最初は、移転してきたばかりのomusubi不動産の事務所でなにかできないか?って話だったよね。
殿塚
1年くらい前で、記憶が曖昧なところがあるんだけど。当時、けっこう大変だったんだんですよ。omusubi不動産ができました、松戸でやってきました、科学と芸術の丘みたいな大きなこともやらせてもらうようになってきました。次のステップを考えていたところで、下北沢に拠点ができました。社内のメンバーも増えるし、周りの人たちとの関係性も変わっていくし。
– あの頃は、しんどそうでしたね。新しく入ってきたみんなに「omusubi不動産とは」を改めて伝えたいけど、どうしたらいいかわからない。どうして下北沢に拠点を持つのか松戸の人たちに伝えたいけど、コロナで会えないし、うまく伝わらないって。
殿塚
正直混乱もしていたし、僕らって存在してたほうがいいですかね?っていうことを、第3者に聞いてみたかった。会社の中に対しても外に対しても、フラットな評価とメッセージが必要だと感じたんだと思う。そんなときに、久芳ちゃんの目線からは、どう見えるだろうっていうのを知りたいと思ったんだよね。
– 久芳ちゃんに声をかけたのは、あくまでも「事務所を使ってなにかできないかな」ということで、別に評価するような作品をつくってほしいというわけではなかった気がします。結果としてできたものも、omusubi不動産と直結した作品でもなければ、開催場所も事務所ではなくなっていって。
殿塚
そのときの状況を伝えてはいた。だけどその後、久芳ちゃんがすることには関わらなかった。この人は変な贔屓があるとか、捻じ曲げるようなことはしないと思っていて。久芳ちゃんが今つくるものを、俺自身もみたいし、会社のみんな、周りの人たちが、それをみてどう思うかも知りたかった。
– 最初は事務所で作品の展示をするような話をしていたけれど、久芳ちゃんは早いうちから、映像作品をつくることを決めていたよね。
久芳
「今」のことを表すのに、動画をやってみようと思ったんだよね。omusubi不動産がどうとかと言うより、私の身近なところに会えて嬉しい人たちがたくさんいるから、それを収めてみようと思った。
殿塚
映像、やってみてどうだった?
久芳
映像は初めてだったし、最初は無邪気に撮ってたんだよね。だんだん物足りなくなってきて、自分がいいと思った目線で撮りたいって実感が出てきて。それが少しずつできるようになってきたときに、カメラを人に向けるのが嫌になったの。
殿塚
そうなんだ。
久芳
カメラを向けると人を緊張させるし、ただ話しているよりも浮き彫りになることがあるというか。難しかったけど、この撮影を通して初めてお会いした人もいて。撮りながら、常に関係性をつくっていく感じがあったかな。気がしれている人であっても、改めてそこで関係性をつくっていく感じがあった。
– そうして身近な人たちを撮ってきた作品のタイトルが「IN YOUR ENVIRONMENTA GOOD CITY WILL ALLOW EVERYONE IN IT TO BE UNIQUE あなたを取り巻く環境として 理想的なのは そこに住む人たちひとりひとりが独自の存在を保てることだ」になった。
久芳
クリストファー・アレグザンダーという都市計画家の方がつくった、この本から引用してるんだけど。これは、人にとって居心地がいい状態をたくさん提案している本なんだよね。この中から見つけた一文が、今、自分の周りにいる人たちにすごく当てはまってる気がして。
殿塚
目指しているのは、僕もこういうことですよ。
久芳
それぞれが、それぞれの存在をいいと思って独立している。その関係が自分の周りに発生している。もちろん変わり続けていくものではあるけど、そういう人たちが集まってきているのは、この街にomusubi不動産があるからだと感じています。
– 確かに殿塚さんが声をかけて始まった作品ではあるけれど、殿塚さんもomusubiメンバーも、なにを撮っているのか知らなかったし、まだみてもいないよね。
殿塚
僕らがつくって欲しいものというより、これはあくまでも久芳ちゃんの作品だから。
久芳
周りの作家友だちからは、それってクライアントワークなんじゃない?自分の制作やったほうがいいよ?って言われることもあって。だけど自分のやりたいことをやらせてもらっているし、尊重してもらえてる。新しい、私の作品ができたと思います。
展覧会情報
IN YOUR ENVIRONMENT
A GOOD CITY WILL ALLOW EVERYONE IN IT TO BE UNIQUE
あなたを取り巻く環境として
理想的なのは そこに住む人たちひとりひとりが独自の存在を保てることだ
October 8 – October 17,2021
13:00-19:00
会期
2021年10月8日(金)〜17日(日)13:00〜19:00
会期中無休
会場
好月(千葉県松戸市稔台1丁目8−12)
新京成線「みのり台」駅より徒歩5分
JR武蔵野線「新八柱」駅より徒歩10分
チケット
無料
参加方法
事前予約制 ウェブサイトよりお申し込みを受け付けています。
尚、当日受付も行っています。その場合、席に空きのある時間をご案内させていただくきます。
上映時間
約40分
主催
久芳真純
協力
omusubi不動産、樋口勇輝、中嶋希実、出演いただいた松戸のみなさま
ご来場に際して
・ご来場の際は、マスクの着用の徹底をお願いします。
・受付にて消毒にご協力ください。
・常時換気のためドアや窓を解放します。(荒天時は状況を見て一部解放)
・状況により、開催場所・内容が変更になる場合があります。
プロフィール
久芳真純 くば・ますみ
1990年千葉県生まれ。女子美術大学短期大学部専攻科造形専攻工芸デザインコース 卒業。ものや言葉を用いたコンセプチュアルな作品を製作。個展「左右の再配置(2020)」、「優しくあることを許して(2019)」。