松戸・八柱でomusubi不動産を始めてから、もうすぐ7年が経とうとしています。不動産という業種柄、いろいろな人の出発のタイミングに立ち会ってきました。
新しい仕事を始めたり、お店を開いたり、初めてアトリエを持つことにしたり。
そのなかでも、焙煎所、住居、シェアキッチン、そして店舗を持つまで、さまざまな挑戦をしながら活動を広げているのが、Tokoa coffee(トコアコーヒー)の池田さんです。
2020年12月、新京成線みのり台駅から徒歩10分のところにカフェを開いた池田さんに、これまでの歩みを聞かせてもらいました。
次に働くなら、カフェで
みのり台の駅から店舗が並ぶエリアを抜けると、周辺には住宅街が広がっています。
omusubi不動産の事務所から歩いて5分ほど。にぎやかな声のする幼稚園、そして小学校の横のすぐ側にTokoa coffeeがあります。
ガラスの扉を開けてなかに入ると「こんにちは」と声をかけてくれる池田さん、そして店内に響くオルゴールの音色が出迎えてくれました。
オープンして間もない店内には古い木材や味のある家具が置かれていて、落ち着きのある雰囲気。カウンターには池田さんが焙煎したコーヒー豆やドリップパック、いろいろなお店から届くという焼き菓子が並んでいます。
「大学生のころから、落ち着けるカフェの空間が好きだったんです。コーヒーが好きだったかと言われると、まだカフェオレしか飲めない大学生でした。」
大きな転機になったのは、大学3年生の就職活動の時期。神経に関わる難病を発症し、時折、右手が思うように動かなくなってしまったそうです。
「原因は今でもわからないんです。字を書こうとすると、緊張からなのかぜんぜん動かなくなってしまったり、箸がうまく使えないときがあったり。一度は就職したものの、精神的に負荷がかかることで悪化してしまうこともあって、働いてすぐ辞めることになりました。」
治療に専念することになった池田さん。空いた時間を使い、通信教育でバリスタの勉強を始めたそうです。その頃から、カフェを開くことを考えていたんですか?
「早く社会復帰したいって焦りがありました。次に働くなら、どこかのカフェに就職して、コーヒーを淹れたいと思うようになって。勉強していくうちに、どうやら焙煎が重要なんだということがわかってきたんです。そこからはほぼ独学で、自分なりの焙煎の仕方を構築してきました。」
オルゴールでコーヒーがおいしくなる
一方病気については、いい治療方法に巡り会うことができない時期が長かったそう。親戚に紹介され足を運んだのが、オルゴールセラピーでした。
「その日効果が出たかと聞かれると、右手はほとんど変わらなかったと思います。ただ、身体が軽くなったような感覚があって。もう少し続けるといいことあるかなってくらいの感覚で通ってみることにしました。」
2ヶ月、3ヶ月と通ううちに、少しずつではあるものの、右手に良い反応を感じるようになったという池田さん。自分でもオルゴールセラピストの資格をとるべく、勉強を始めます。
「続けていくうちに、オルゴールセラピストの仲間ができました。みなさんいろいろな経験をしていて。話を聞いているうちに、僕は無理やり自分の可能性を狭めてることに気づいたんです。」
「右手を動かすことに執着していたけど、左手を使う練習をして、調子が悪い日は左手を使えばいい。人と接していくなかで、こんなこともアリなんだって視界が広がって、精神的にも緩んでいく経験をしました。」
考え方がほぐれていくなかで、どこか働ける場所を探すのではなく、自分ができる仕事を、自分でつくることを自然と考えるようになったと言います。
自分らしい仕事を考えていくなかでヒントになったのが、オルゴールの響きが、植物にもいい影響を与えることを学んだときのことでした。
「コーヒーの生豆にオルゴールを聴かせたら、おいしいコーヒーができるんじゃないかって仮説を立てて、実際に比べてみたんです。そうしたら違ったんですよ。雑味がなくなっているのに気づいて。これを売りに、コーヒー豆屋さんをはじめようと決めました。」
「これ以上マイペースなお店はないんじゃないかなっていうくらい自分のペースで、オンラインでコーヒー豆を売り始めました。親戚や友人、セラピスト仲間に飲んでもらうようになったのがTokoa coffeeの始まりです。」
すごくあったかい雰囲気が、松戸の第一印象
自分ができるペースで始めたコーヒー豆屋さん。次の転機になったのは、大きなイベント出店に誘われたことでした。いろいろなネットショップのオーナーが集まるイベントで、池田さんはコーヒー豆の販売と、ドリップコーヒーの提供を行ったそうです。
「知らない人に自分のコーヒーを飲んでもらって、コーヒー豆を買ってもらって。そのやりとりが嬉しかったんですよね。それと、自分と同じようにお店を始めたばかりで頑張っている人たちと出会えたのは、すごく励みになりました。」
それを機に、積極的にイベントに参加するようになった池田さん。それまでは実家のキッチンで焙煎をしていましたが、一度にある程度の量を焙煎するため、焙煎所をつくることを考え始めます。
「だけど、どうやって物件を探せばいいのかわからなくって。それで、イベントで隣のブースになった季節の焼き菓子Charte(チャルテ)さんに、工房にしている物件をどう見つけたのか聞いてみたんです。そうしたらomusubi不動産の名前が出てきて。」
思い立ったらすぐ行動。omusubi不動産にやって来て、1ヶ月も経たないうちに浅草のシェアアトリエ「KAMINARI」への入居を決めました。
当時住んでいた実家から浅草へは1時間と少し離れていたものの、自分の焙煎所を持てたことがうれしくて、毎日のように通っていたそうです。
「KAMINARIには他にも個性的な入居者さんがいて、すごく刺激的でした。いろんな考え方があることを日々発見できて、自分にとってすごくプラスになる日々でしたね。」
焙煎所でコーヒー豆をつくり、イベントに出店する日々。そのなかで、松戸に出店する機会が巡ってきます。
「omusubi不動産の殿塚さんが登壇したイベントに顔を出したら、あかぎハイツの赤城さんと出会って。当時『あかぎハイツdeマーケット』を開催していたのを知ってたので、自己紹介をしつつ、出店できますか?って相談してみたんです。そうしたら快く、大丈夫!って言ってもらって。」
チャンスがあれば積極的につかみにいく池田さん。そうして参加した「あかぎハイツdeマーケット」が、松戸に深く関わる大きなきっかけになりました。
「雰囲気がすごくよかったんです。それまでのイベントとなにが違うかって聞かれると、うまく説明できないんですけど。出店者もお客さんも、なんか一体感があって、すごくあったかいなって。それが松戸の第一印象です。」
イベント出店と焙煎に追われる日々。ときには焙煎所に泊まり込みで作業をすることもあったそう。ちょっと張り切りすぎてしまったのか、体調を崩し、入院した時期がありました。
「病院のベッドの上で、そろそろ生活スタイルを変える時期なのかなって考えるようになりました。自宅兼焙煎所をつくるなら松戸がいいと思って。退院してからよく考えて、またomusubiに相談しに行ったんです。」
「そうしたら、松戸で活動することをすごく嬉しいって言ってくれて。すぐに焙煎所にする場所も決まって、そこから松戸にお世話になっています。」
松戸に焙煎所を構えたのが2018年の4月。その2ヶ月後には、omusubiが運営するシェアカフェ「One Table」で週に1度の営業も開始します。
生活も仕事も一気に松戸になった池田さん。松戸での新生活、どうでしたか?
「その頃からコーヒー豆を置いてくれるっていう話も自然と増えたんです。生活しているなかで自然とつながっていく感じがすごく心地よくて。過ごしやすいし仕事もしやすいし。松戸の雰囲気がすごい合いましたよね、自分に。」
自分のカフェから、自然と広がる心地よさ
イベント出店も続けながら、One Tableでも着々とファンを増やしていったTokoa coffee。自分のお店を開くことは、いつ頃から考えていたんですか。
「自分の場所を持ってやりたいなって思っていたけれど、タイミングをつかめずにいたんですよね。そんなときに新型コロナウイルスが流行って、イベントにも出られなくなりました。収益も落ちたし、正直、このまま続けていけるのかなって思ったこともあります。」
「あのとき給付金を受け取って、どうしようかって考えたんです。現状維持で使い切るのを待つようなことはしたくない。それで、自分のカフェを始めるのに使おうと決めたんです。」
今Tokoa coffeeとして使っている物件は、以前は住居兼事務所だったスペース。駅から近いわけでも、人通りが多いわけでもありません。けれど内見に来たとき、池田さんにはここを自分のお店にしていくイメージが湧いたそうです。
「いろいろな人が入ってくるお店というより、この場所をめがけて来てくれる人や、周りに住んでいる人がゆっくり過ごせる場所にしたいと思っています。周りには小学校や幼稚園もあるし、立地的にもすごく気に入っているんです。」
内装を担当したのは、八柱にあるMADE BY …。これまでたくさんのカフェに行きながら感じていた居心地の良さを伝えながら、一緒につくりあげてきたお店は、2020年12月にオープンを迎えました。
「オープン当時は大変でしたけど、1ヶ月くらいでリズムもできてきて、今はすごく楽しいです。あたり前だけど、ここは全部自分次第なんですよね。なんだか人間的な感じがしています。」
人間的な感じ。
「ym.さんとかTiny kitchen and counterさんとか、これまで松戸で出会ってきたお店の人たちに紹介されて来ましたっていう人も少なくないんです。自分のつながりで広がっていくことが、すごく自然な感じがしています。」
みんなが紹介したくなるように、店内には「池田さんらしさ」が散りばめれています。そのなかのひとつが、カウンターに並ぶ焼き菓子。これまで池田さんが知り合い、共感できる人たちがつくるタルトやクッキー、マフィンなどを仕入れているそうです。
「つながりで場をつくることは、星子スコーンさんから学びました。お店のなかで企画展示をしていたり、いろいろな作家さんの作品を扱っていたり。僕の豆も置いてくださっています。Tokoa coffeeでは一人だとコーヒーしかないけれど、出会ってきた人たちの焼き菓子を置いたり、カップも作家さんにお願いしています。これからも少しずつ、いい場所にしていきたいですね。」
話を聞いていて印象的だったのは、積極的に人に出会い、いいと思ったことを柔軟に取り入れていく池田さんの柔らかさでした。
お店に行ったときにも、ふと町ですれ違ったときにも、いつも笑顔の印象がある池田さん。コーヒーとオルゴールの音色のある空間に、ぜひ会いに行ってみてください。
<店舗情報>
Tokoa coffee
営業時間:日曜〜水曜11:00 – 18:00 土曜日13:00 – 18:00
木曜・金曜 定休
住所:千葉県松戸市稔台2−38−1 あかぎ荘102
新京成線みのり台駅より徒歩10分
JR武蔵野線新八柱駅・新京成線八柱駅より徒歩15分
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